一番最初にしたモノは


少ししょっぱい涙の味とふわり漂ったアメの甘い香。





























今日はいつになく忙しい日で。


仕事場の中を慌ただしく行ったり来たり。




そんなわけで、あいつがここに遊びに来ていたこともだいぶ経ってから気付いた。






「あれ、今日学校は?」


「今日はお休み」





庭の角の木に寄り掛かり、こちらにそっぽを向けたままあっさりした答えが返って来た。



せっかく休みだから遊びに来てくれたのに…



悪い気持ちになりながらも、これ以上話し込むことも出来ずにまた仕事に戻る。




























そうして何時間か経って、日も傾きかけたころ。


やっと一段落ついて、しかしもう帰っただろうと思いつつ庭の方に目をやると、





少し前にみた姿とほぼ変わらぬ体勢で木に寄り掛かる姿があった。





何故か居ても立ってもいられなくなり、慌てて庭へと駆け出して。






「てっきり帰ったと思った…」


「どうせやること、何もないし」






やはりそっぽを向いたまま、しかしその言葉は僅かに震えていた。







「…何かあったのか?」


「別に」


「別に、って…」


「…………」







あっさり、淡々と紡ぐ言葉。


どこかやはり不機嫌そうな、今にも泣きだしそうな姿。




理由を探す、が見当たらない。










しばらくするとこの空間に小さくすすり泣きが響いた。






「……っ」


「…」





何と声を掛けたらいいものだろうか…


色んな言いたいことがぐるぐると頭を巡るけれど、それは声になることなく。






しばらく時が過ぎて、


睦月は趣にポケットからアメを出してそれを頬張る。





すすり泣きから大分大きくなった泣き声に交じり、アメの口の中で転がるからころという音がやけに響いた。





「構って…くれないん、だもん…っ」





ぽつり、


鳴咽に交じり呟いた言葉がやけにはっきりと俺の頭に響く。







「僕のこと、っ…誰も…」






こいつはいつも気まぐれな、


独りもまた好きな奴だと…







「…、ごめん」








やっと選び抜いた言葉が口をついた。





すると半ば睨みつけるようにこちらを見上げた瞳


何だか言葉で言い表せない不思議な感覚に陥って、


気付いたときには、そっと髪を撫でていた。






「…だけは、」





しばらくすると見上げる目にまた新たな涙を浮かべて言葉を紡ぐ。





「ヒューだけは…僕の前からいなくならないで」



「…わかった、約束する」





何だか言葉で表現出来ない不思議なキモチに駆られ、



悩む事なく、さらりと口をついた返事。








…そして、


ほんの、一瞬だけ。








薄く開いた唇を塞ぐ―









―それは、温かくて


ほんのり香ったアメの香と…






少ししょっぱい涙の味。









潤んだ緑の瞳が、真ん丸に見開かれてこちらを見ていた。






「…約束」


「あぁ」







確認するように呟く声。


肯定すれば、そこには笑顔。






これから先は、もう二度と…



言葉にしてしまえば安くなってしまう気がしたから、心の中でひそかに誓おう。















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…なんか軽く読み返してたら、コメントする気が、…

とりあえずヒューにクサい台詞も似合わなくはないと思います、うん。



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