また日が昇り、朝が来る


ひとり、ぽっかりと居なくなったこの世界を


また今日も太陽が照らす



それを知っているのも、ひとりだけ。



自分の心の中にだけ留まる、

皆から唯一”消えた”存在を、――































Un monde

































「……っ」



暫く開いたことの無いような感覚の、重たい目を開く。


目の前に広がる白の眩しさに思わず目を細めた。




「ハジメっ!お前…っ」


「あ…、ん?」




突然響いた大きな声に一瞬驚き、そしてそれがDTOのものだとやっと気付く。


何故寝起き一番にこんな声を聞かなきゃなんないんだ…



またも暫く動かしたことの無いような重い体を起こしたとき、やっとこの状況が飲み込めた。



俺の腕に繋がっている何本もの細い管や側に置かれたいくつもの機械。




「あれ、俺…」


「お前、何日も寝てやがって、本当に危なかったんだからな…でも、よかった目覚めて…」




声が微かに震えているのは気のせいじゃないはずだ。




確か学校の帰り道、自転車で走る俺の横から来た車…


そこで記憶が途絶えている、ということは。



「俺…どうしたんだっけ…?」




俺が今ここに居る事になった、そこまでの経緯をひとつひとつ教えてもらった。


その一件のあと、どうやらかなり危ない状態が続いていたようで。


もちろん昨日だってその例外では無かった。

だからこうして今起き上がって普通に話をしているなんて少しも想像出来なかった、いや言ってしまえば”ありえない”事なのだ、と…




そして俺はふと、気になったことをぽつりと尋ねる。




「そういや…ミシェルは?」


「あいつだったら一応ここまでは一緒に来たんだけどな、ちょっと用事がなんちゃらとかで部屋の中まではまだ来てないんだよ…すぐ戻る、って言ってたけど」





何だか、嫌な予感がした。





「なあ…何処まで行ったか見てた!?」


「この廊下まっすぐ行っちまったんだけど、でもこの先には屋上しか…」




何故だかはわからないが、はっとなった。




「俺見てくる」


「おい、お前まだ起きたばっかりなんだから、ってそれ以前にそんな状態じゃ…」




忠告を無視して、繋がっているものを引きはがして立ち上がる。


その時に感じた痛みも気にならなかった。




「行かなきゃ…いけない気がするんだよ」




呼び止める声も聞こえない位、急いで病室のドアを開け放ち、無我夢中に廊下を走り階段 を駆け上がる。



そして俺は勢いよく階段の終わりの突当たり、目の前に現れた扉を開け放った。








































そこには蒼い空。


風にそよぐ白いシーツ。


その真ん中に、漆黒の髪もそよいでいた。

でもその姿はどこか儚げで…






「おい…っ」


「あぁ、ハジメ…元気になって良かった」


「どういう…事、だよ」




俺はつい昨日までかなり危ない状態だったようで、でも今日の朝突然意識を取り戻し、多少息は切れているがこうして屋上まで走って来た。


これは単に"良くなった"で済まされる問題じゃないのは明確だ。


でも何となく、漠然とだけれど…

理由は、思い当たらないこともなかった。




「うん、良かった…」


「おい…質問に、ちゃんと答えろよっ!?」




思わず俺は歩み寄り胸倉を掴む、

…その姿の先に、僅かに写りこむ地面が見えた。




「何だよ、これ…」


「そう…僕はもう少しで消えてしまう…この世界から、存在がね」


「消える?お前が!?何だよそれ!?」


「そう、それが僕の支払う代償だから…」





そう言ってお前は遠い空を見るともなく見た。





「消えるって…居なくなるって…?」


「もう二度と、こうしてハジメとお話することは出来ないという事」


「嘘だ…嘘だろっ!?」





俺の方にまた視線を戻し、微笑んで。





「でも貴方の命と未来を保障するなら足りないくらいの代償だよ」


「俺の、命って…」





もう何だかよくわからない。

だから合った視線を外さずに、ただ答えを待っていた。





「つまり、僕は貴方に生きていてほしいから、僕はその命を救い、幸せな未来を約束するため代償を支払う、そんな行為をした…」





蒼と黄色の双眸もこちらをしっかり見つめて、そして続ける。





「代償は、自分の存在…姿はもちろん、皆の記憶からも僕は消えて、本当にこの世界から消えてなくなる」


「何、で…」





頬を、つぅ…とミシェルの心なしか透き通った指が撫でる。

その時初めて、俺が涙を流していたことに気付いた。





「でもこれにはひとつ落とし穴があって、」






ぎゅ、


半透明な、だけど確かに何時もの温かさがある体に抱きしめられる。





「この世界で誰よりも一番だと…そう僕が想っている人の記憶だけは消すことが出来ないんだよ…」







そしてそっと触れるだけ、唇が重なって。







「覚えてて…くれるかな、ハジメ?」


「何言ってるんだよ馬鹿っ…」


「貴方には、幸せになってほしいから」


「何で…っ!お前の居ない世界で俺に幸せになれとか言えるんだよ!?何でこんな状況で俺の心配してんだ!そんな事言う位なら、俺の前から…居なくなるなよ…っ……」





段々と、目の前が淡い光に包まれてくる。


でもまだしっかりと、腰に手を回す感覚は伝わっているのがますます空しかった。





「本当に、ありがとう…貴方と出会えて、同じ時間を過ごせて良かった」


「やだ…嫌だ!お前が居なくなるのは見たくないっ…」


「僕だってハジメが居なくなるのを見るのは嫌だったから…」






声が遠くから、響いてきている気がする。






「最期まで大切な人を守れないのは嫌だったから…僕の我が儘を、許して?」


「嫌だ…俺ひとり置いて居なくなるなんて、じゃあ俺にだって我が儘、言わせろよ…っ!!」






少し悲しげに微笑んだのが、淡い眩しい光の中に見えた。








「じゃあ、そろそろ…」


「嫌だ…消えるなよっ…」


「……ごめん、そして…ありがとう、」





それから俺の耳元でそっと、






「     」







囁かれたその言葉に視界が滲む。





「俺、だって…っ!」




ありったけの想いを込めて、




返事を返そうとした俺の目の前を少し強い風が吹き抜けていき、 思わず台詞も途切れ目を閉じる。







その寸前に視界に捕らえたモノは









今まで見た中で1番優しく、綺麗な微笑みだった…



















































































次に目を開くと、そこには蒼い空を背景にシーツがはためく午前の屋上の風景。



振り返った。



ゆっくりと、周りを見渡した。





…誰も、いなかった。





そして腰の辺りや自分の手に僅かに残る、温かさ。






ゆっくりと、目の前に白い羽が舞い降りてくる。



それはすぅ、と目の前に広げた手の平にそっと乗った。







それを力いっぱい握りしめて、その場にしゃがみ込む。

色々と、複雑なキモチが溢れてくる。









「…っ、」








こんなにも、あっさりと。

消えてしまうものなのか。










信じられない、











「嘘だろ…っ、なぁ…?」













さっきまで目の前で話していた存在が、世界からぽっかり消えたなんて信じられなかった。







流れる熱い雫を止める術を知らないから、


ただ何も考えられず鳴咽をあげるだけ。
























しばらくして、後から足音が聞こえ、


そして人の気配が真後ろに。



「おい!部屋飛び出して何やってんだ馬鹿!!何でこんな所に来たんだよ?」


「…何で、って…っ」



あんたが、屋上にいるかもとか言ったからだろ?


もしかして、………?






「まさか泣いてるのか!?どうしたんだよ全く…部屋戻るぞ!」



しゃがみ込んでいた俺を無理矢理引き起こし、ずるずると引きずるように部屋へ戻される。





「いくら回復したからってな、昨日まで死にかけてた奴が…おとなしく寝てろよ」


「死にかけてた、は余計だ…」



ベッドまで俺を運んだ後、そういって部屋から出て行こうとした、姿に、



ぽつりと独り言をつぶやいた後で
俺は布団に包まり背中を向けたまま声を掛ける。



「…なぁ、」


「ん、何だ?」


「………いや、何でもない」


「…そうか」



ガラリ、と扉が開いて閉じる音。



やっぱり、直接は聞けるわけが無い…


答えは目に見えている。


記憶からすっかり消えたことを訊ねられても困るだけだろうから…




「どうすりゃ…いいんだよ、…っ」



手の中にある白い羽を握り締め、


布団の中に潜り込み、固く目を閉じる。




今出来るのは、只それだけ…











































































何日かして、俺はやっと病院から出た。



そして久しぶりの学校へと足を運ぶ。


先生からも生徒からも、皆からおめでとうと、声を掛けられた。


そんな言葉に本当に嬉しくなったけれど、心のどこかが重たくて。






俺は素直に笑えていた―?








職員室の机は、俺の居ない間に席変えなるものをしたらしい。


俺の向え側の席は、たくさんの本がやけに丁寧に積まれている、

あの見慣れた机ではなくなっていた。





そして街を歩けば、

出会うたくさんの友達や知り合い。


その中の何人が、俺ひとりでは出会う事も無かった人だろう…?


そう思うと、もはやそんな人達と話すのも怖い。













空っぽになってしまった心、



あっさりと、且残酷に、



目の前に突きつけられた事実。






その存在を、姿を、思い出を、言葉を、声を、温かさを、優しさを、微笑を、想いを…




知っているのは、覚えているのは、









只一人。





ただ、独り―――



































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…はっはっはー
やってしまいました、妄想が完全に暴走しました^_^;

何だこのファンタジーっ!?!?うわーっ
…まあこんなんになってしまうのもミシェルさんの存在がそうさせるわけで((え
この方は存在がファンタジーです、覚醒とかね((笑


久々書いたハジミシェがこんななんて…っ しかもファンタジー(三回目)だからどうも微妙な後味…
ここまで読んでくださりありがとうございましたー



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